猫の眼球摘出

2019年10月12日

今回は眼球摘出術についてご説明させていただきます。
眼球摘出術は名前の通り、眼球を取り除く手術になります。これを聞くと痛々しい気分になる方が多いかと思います。私も眼科医としてはなるべく眼球を温存してあげることを目指すのですが、時には必要になってくることもあります。今回は眼球摘出術が適応になる場合と、実際手術を行った症例をご紹介させていただきます。
眼球摘出術が適応となる場合としては、末期の緑内障があげられます。緑内障は眼圧が上昇することで、視覚を失ってしまう疾患になります。また眼圧が上昇することで強い痛みが生じるため、目をしょぼしょぼさせたり、目やにが多くなることがあります。痛みが強い場合には、食欲が落ちたり元気がなくなります。目薬で眼圧を下げることで痛みが軽減され、視覚が維持できることもありますが、眼圧が長時間上昇していた場合は、視覚を失って回復が困難なこともあります。また眼圧が高い状態が続くと神経が麻痺してしまい、痛みが少し和らぐことがあります。しかし痛みは消えることはないため、軽い頭痛のような状態が続いていると考えられます。既に視覚を失ってしまい、痛みが続いていると考えられる時には痛みを取り除いてあげるため、眼球摘出術が適応となります。また緑内障の場合には、眼球の中身だけを取り替えるような眼内シリコン義眼挿入術も適応となります。今回は眼球摘出術のご紹介のため、詳細は割愛します。
他にも眼球摘出術が適応になる場合として、目の癌が挙げられます。目の癌の場合は、視覚を失っていなかったとしても、今後転移などによって命に関わるような場合は眼球摘出術が勧められることもあります。しかしすべての目の癌が全身に転移するような悪性のものではありませんので、目の癌が疑わしい場合は一度獣医師に相談してください。
今回の症例は緑内障や癌ではないのですが、眼球摘出に至ったため、ご紹介させていただきます。

症例
雄猫、年齢不明、野外にいたのを保護され、当院に来院。

経過は不明ですが両眼とも失明していて、右目は眼球が拡張しており、左目は萎縮し眼球が小さくなっています。眼圧上昇や眼内腫瘍もみられないため、おそらく先天的な問題や発育異常が原因だと考えられます。
症例自身は痛みを感じているようなことはありませんでしたが、右目の眼球は拡張して角膜が重度に菲薄化していたため、穿孔する可能性がありました。そのため今後角膜穿孔によって痛みや感染が生じないよう、眼球摘出術を検討いたしました。また左目も眼球が小さくなることで瞼が内反し、眼球を刺激することで目ヤニが出ていました。そのため今後問題が起きないよう、両眼の眼球摘出術を実施することと致しました。

手術の写真は割愛させて頂きますが、手術後も元気な状態でした。そして里親も無事見つかり退院していきました。

こちらが手術後の写真になります。手術前より顔貌は良くなっているのではないでしょうか。またとても人懐っこい症例のため、病院スタッフ全員に愛されており、里親さんのもとでもとても幸せに暮らしているようです。

なぜ今回眼球摘出術を紹介させて頂いたかというと、眼球摘出術を選択肢としてご提案すると見た目が変わることに悩まれる飼い主さんが多いためです。もちろん自分の愛犬・愛猫の目がなくなってしまうことを考えると、とても抵抗があるとは思います。しかし眼球摘出をしてあげることで痛みが取れてより元気になる場合や、癌による転移の心配がなくなる場合がある、ということも知って頂きたいと思っています。その子にとって何が一番大事であるのか、痛みなく過ごすことなのか、それともなるべく麻酔がないようにしてあげることなのか。考え方は人それぞれではあると思いますが、よりよい選択をして頂きたいと思い、今回症例としてご紹介させて頂きました。もちろん見た目を温存する方法として前述した眼内シリコン義眼挿入術もあります。そのため、手術をしたほうがよいのか、手術をしないとどうなるのか、また手術の方法についてメリット・デメリットがどのようなものなのかについて知りたい方は、一度病院の方に来院されてご相談下さい。

獣医師 小松

慢性鼻炎の犬猫とネブライザー

2019年10月12日

今回は慢性的に鼻炎を繰り返す猫への、ネブライザー療法をご紹介します。

当院で使用しているネブライザー

吸入薬を霧状にし、鼻腔や気管に届けます。吸入薬は経口薬よりも少ない量で効果をだすことができます。
犬猫は人のように吸入部分を口に当てて吸い込むことができないため、当院では狭い部屋の中を霧で満たすことで対応しています。時間としては一回あたり15分〜20分程度で、お預かりして行うことが多いです。

【症例】
13歳 去勢済み オス猫
主訴:元気食欲はあるが、数日前からくしゃみをしいる
   くしゃみの回数と鼻水の量が増えてきて、鼻水の色が透明から黄色くなってきた
既往歴:尿石症(フードでコントロール中)
    以前にも鼻炎症状でたことがあるが、点鼻薬ですぐに改善
身体検査:発熱、体重減少などなし
     鼻鏡に傷、顔面の変形などはない
血液検査:異常なし
レントゲン検査:頭部胸部ともに異常なし
鼻汁の塗抹検査:好中球 ++ 好酸球 – 細菌 –

治療:検査で異常が認められなかったため、抗生物質の点鼻、ネブライザー、抗生物質の
内服を開始
   くしゃみの回数、鼻汁の量共に多かったため、ネブライザーは3日間連続で実施
治療4日目:くしゃみ、鼻汁ともにかなり減ってきたということでネブライザー
      は1日〜2日おきに減らし、あと一週間行うこととする
治療7日目:経過良好、抗生物質の内服を終了
治療11日目:症状はほぼなくなったのでネブライザーをやめ、点鼻薬のみにする
治療15日目:点鼻薬終了

治療当初にネブライザーを連日して行えたこともあり症状の改善はすぐにみられ、内服も最低限で終わらすことができました。しかし、治療終了から一ヶ月で同様の症状が再発してしまい、その後も治療に反応して良くなるもの鼻炎症状を繰り返すようになりました。
そこで症状が改善した後も定期的なネブライザーを行うようにしたところ、症状をコントロールできるようになっています。

犬猫の慢性鼻炎の原因として、口腔内環境の悪化によるもの、免疫介在性、ウイルス関連性、アレルギー性そして鼻腔内腫瘍など多くの疾患が考えられます。当院では検査結果や、治療への反応性などからどのような治療が適しているか常に判断しながら、必要であれば各種内服薬の処方もおこないますが、不要な内服薬処方を減らすため、また不快な鼻腔症状を素早く改善するためにネブライザーは有効な治療法であると考えています。
また、犬猫ともに鼻腔内腫瘍で苦しむ症例は少なくありません。腫瘍に対する根本的な治療はもちろん別に必要となりますが、ネブライザーを併用することで鼻腔内のつまり解消による食欲改善や、呼吸状態の改善などの効果が期待できることがあります。

ネブライザー治療は高頻度の通院が必要になるために、なかなか難しいこともあると思いますが、お預かり時間を長くすることで1日に2回ネブライザーを行うなど、対処できることもあると思います。是非ご相談ください。

獣医師 湯藤

腫瘍に対する温熱療法

2019年10月12日

温熱療法は腫瘍が他の細胞に比べ熱に弱いことを利用した治療法です。様々の方法により癌細胞に熱を加え治療を行います。人の医療で使用されるような高度な機械もありますが、当院の温熱療法はもう少し原始的です。腫瘍細胞を低温火傷によって死滅させるイメージです。

今回は手術が難しい場所にできてしまった腫瘍に対して、温熱療法を行った猫を紹介します。
使用するのは動物用に開発されているAMTC200という装置です。

熱を発する針金を腫瘍にさして低温火傷を起こさせます。

症例

雑種猫 12歳
既往歴 心膜横隔膜ヘルニア

顎の先端に腫瘍があり、上手にご飯が食べられなくなってきました。
他院で心臓が悪くて麻酔がかけられないと言われていたようですが、この子は心膜横隔膜ヘルニアという奇形であり、レントゲンでは心臓が大きく見えてしまうのですが、心臓そのものに異常はありません。そのため、麻酔をかけて病理検査を行うことができました。
結果:悪性末梢神経鞘腫瘍
これは、低悪性度と分類される腫瘍です。
悪性度が高くないので、遠隔転移などを起こすことは稀で命に別状はありません。
しかし腫瘍のできた場所が悪く、完全摘出を行うと下顎の骨を失うこととなります。
そこで温熱療法を試すことにしました。

手術時の写真です。



針を腫瘍にさして、熱を与えていきます(3枚目)。施術前(1,2枚目)にくらべ、施術後(4枚目)は少し黒くしぼんだようになっていることがわかります。

その後、10日後(上)壊死する部分が現れました。20日後には先端が崩れ落ちそうになりました。(下)

このまま、崩れ落ちてくれれば良かったのですが、顎の先端は血流も豊富で、これ以上は壊死が進みませんでした。
しかし、腫瘍と正常組織の境目の半分以上が壊死してくれたので、手術による切除が可能な状態となりました。
もう一度、温熱を当てながら、先端を切除する手術を行いました。


写真は2回目切除手術後(上)と更に1か月後です(下)
現在、2回目の手術から3か月が経過していますが、大きな再発にもなく順調で、フードも食べやすくなったようです。

当院の温熱療法は完治を求める治療ではありません。
しかし、手術が不可能な場所であっても、腫瘍の容積を減らすことができれば、生活の質を向上させることができる場合も多くあると思います。

獣医師 松倉

猫の皮膚腫瘍

2019年04月07日

症例:
猫 メインクーン 11歳 避妊メス

経過:
右後肢の足根部に皮下腫瘤ができたとのことで来院されました。

レントゲン:

 右後肢 側方像


 左後肢 側方像


 後肢 正面像

腫瘤は足根の関節領域の皮膚の下にこぶし大に確認されました。その中心部にはレントゲンで濃い白く写るような不透過性の病変が確認されました。腫瘤は直径8cmと大きく膨らんでいましたが、骨組織への浸潤は認められませんでした。

経過:
痛みもなく歩行にも異常はありませんでしたが、数か月の間に急速に増大していたため、外科切除による治療を提案させていただきました。

手術:
全身麻酔下にて腫瘤の全摘出を実施しました。



                     
腫瘤がとても大きかったため一緒に切除する皮膚も広範囲になりましたが、筋肉も神経も損傷することなく無事に摘出できました。

摘出腫瘤 8cm×4cm×3.5cm

摘出腫瘤断面像:中心部に骨様の非常に硬い領域がありました(レントゲンで認めた不透過性の部分)。メスの刃でも切ることができないくらい硬い病変でした。

病理診断:
摘出腫瘤は外部の検査センターに診断を依頼しました。
結果は、仮骨性軟骨脂肪(Ossifying chondrolipoma)という病理診断でした。これは皮下脂肪組織の中に骨軟骨組織が存在するタイプの良性腫瘍です。このように脂肪組織の中に骨形成を伴っている病態は、動物では非常にまれなケースなのだそうです。腫瘤は手術ですべて切除できているので、今後は抗がん剤などの治療は行わず、再発がないか経過観察することになりました。

このケースのように、良性の腫瘤であっても大きくなりすぎたり、あるいは痛みを伴ったりする場合は将来的なリスクを考えて外科的な切除が治療に必要です。腫瘍の発生部位によっては、大きくなりすぎると手術で摘出できなくなったりしてしいますので、ペットの体にしこりをみつけたら早めに受診するようにしてください。

獣医師 吉村

猫の粉砕骨折手術

2018年07月28日

交通事故にあったところを保護された野良猫ちゃんです。推定年齢2〜3歳、茶トラで人懐こい男の子です。幸いにして内臓や肺の方にダメージは見つからなかったのですが、骨盤周辺に複数の骨折と脱臼があることが診察で分かりました。かなり痛々しい状況ですが、実は野良猫ちゃんの交通事故で骨盤の複雑骨折はよくあります。骨折していても、部位や症状によって手術をしないこともあるのですが、今回は保護された方と相談を重ねた上、手術することになりました。

▶手術経過

レントゲンではどうしても平面的な情報しか得られないので、縦と横のレントゲン情報を院長の頭の中で3次元に組み立てて手術を計画。手術中は、実際に入れているピンなどが思った位置に入っているか、レントゲンを確認しながら進めていきました。何度も調整しながら、仙腸関節の脱臼、大腿骨近位粉砕骨折を整復。骨髄内のピンだけでなく、創外固定という体の外に設置する器具も使用し、細かい作業の必要な手術になりました。

▶手術を終えて

手術は当初の想定より短い1時間半で無事に終了し、術後は痛みを抑えるために痛み止めをしっかり点滴。手術翌日からご飯をモリモリ食べてくれ、保護された方も一安心されていました。
骨盤骨折の場合、足が使えるようになるかはもちろんですが、排便排尿が自力でできるようになるかが、大きなポイントになります。術後炎症などの影響もあり、一時うまく排尿ができずに心配しましたが、無事に自分で排尿ができるようになりました。もちろん、歩行も可能です。
リハビリや創外固定をはずす処置など、まだまだ頑張らなくてはなりませんが、今は保護された方のお家で元気いっぱい幸せに暮らしています。

▶術後について

骨盤と大腿骨骨頭骨折の手術を無事に終えて、元気に退院した猫さんですが、骨の中にピンを入れただけでなく、体の外にも金属の器具を設置していました。退院後は元気余って自分でクッション材を取ってしまったり、器具で皮膚に炎症が起きてしまったりと、飼い主様にはちょっとドキドキの日々だったと思います。クッション材の交換や傷の消毒に定期的に通院してもらい、1ヶ月…レントゲンで骨の様子を確認し、晴れて器具を取りました。すっかり病院嫌いになって怖い顔をしていますが、歩く時もしっかり脚を使っていました。


そして先日抜ピンから2 ヶ月の定期検診に来てくれました。2ヶ月前には、まだ少し隙間があった部分もしっかり骨で埋まっています。もちろん歩行もできていて、元気いっぱいに暮らしているそうです。手術で刈った毛もすっかり生え揃い、ふくふくの可愛い猫ちゃんになっていました。
交通事故に合ったところを保護され、手術その後のケアと、猫ちゃんも飼い主さんも大変な夏だったと思いますが、すっかり飼い猫として幸せそうに暮らしているのを見て、とても癒やされた私達です。

獣医師 湯藤