腫瘍に対する温熱療法

2019年10月12日

温熱療法は腫瘍が他の細胞に比べ熱に弱いことを利用した治療法です。様々の方法により癌細胞に熱を加え治療を行います。人の医療で使用されるような高度な機械もありますが、当院の温熱療法はもう少し原始的です。腫瘍細胞を低温火傷によって死滅させるイメージです。

今回は手術が難しい場所にできてしまった腫瘍に対して、温熱療法を行った猫を紹介します。
使用するのは動物用に開発されているAMTC200という装置です。

熱を発する針金を腫瘍にさして低温火傷を起こさせます。

症例

雑種猫 12歳
既往歴 心膜横隔膜ヘルニア

顎の先端に腫瘍があり、上手にご飯が食べられなくなってきました。
他院で心臓が悪くて麻酔がかけられないと言われていたようですが、この子は心膜横隔膜ヘルニアという奇形であり、レントゲンでは心臓が大きく見えてしまうのですが、心臓そのものに異常はありません。そのため、麻酔をかけて病理検査を行うことができました。
結果:悪性末梢神経鞘腫瘍
これは、低悪性度と分類される腫瘍です。
悪性度が高くないので、遠隔転移などを起こすことは稀で命に別状はありません。
しかし腫瘍のできた場所が悪く、完全摘出を行うと下顎の骨を失うこととなります。
そこで温熱療法を試すことにしました。

手術時の写真です。



針を腫瘍にさして、熱を与えていきます(3枚目)。施術前(1,2枚目)にくらべ、施術後(4枚目)は少し黒くしぼんだようになっていることがわかります。

その後、10日後(上)壊死する部分が現れました。20日後には先端が崩れ落ちそうになりました。(下)

このまま、崩れ落ちてくれれば良かったのですが、顎の先端は血流も豊富で、これ以上は壊死が進みませんでした。
しかし、腫瘍と正常組織の境目の半分以上が壊死してくれたので、手術による切除が可能な状態となりました。
もう一度、温熱を当てながら、先端を切除する手術を行いました。


写真は2回目切除手術後(上)と更に1か月後です(下)
現在、2回目の手術から3か月が経過していますが、大きな再発にもなく順調で、フードも食べやすくなったようです。

当院の温熱療法は完治を求める治療ではありません。
しかし、手術が不可能な場所であっても、腫瘍の容積を減らすことができれば、生活の質を向上させることができる場合も多くあると思います。

獣医師 松倉

外陰部腫瘤により細菌性膀胱炎を繰り返した症例

2019年10月12日

症例プロフィール:ゴールデンレトリーバー
避妊雌 9歳4か月
既往歴:
変形性関節症による間欠的な股関節痛(体重管理、グルコサミン・コンドロイチン補充治療中)
左浅頚部の皮膚肥満細胞腫(外科摘出済み、パトネックグレードII、経過観察中)

主訴:
細菌性膀胱炎に起因する頻尿・血尿の症状に対して内科治療を行うも、治療終了後数週間で症状の再発を繰り返していた。

検査:
尿検査:
レントゲン検査:
超音波検査:
膀胱粘膜にわずかな肥厚は認めるが、明らかな腫瘤病変はなし
膀胱結石なし
その他の腹腔内臓器には著変なし

経過:
尿中細菌の培養結果に基づいた抗菌剤の投与、および尿路ケア用のフードに変更と猪苓湯による治療を行った。治療開始直後から治療中の症状は改善し、尿検査所見も正常化したため、一定期間の治療後に抗菌剤は休薬とした。しかし休薬後約1週間で膀胱炎の症状が再発していた。
再度身体チェックをおこなったところ、外陰部の内側に2cm大の硬い黒色腫瘤が確認された。腫瘤は膣の内腔を占拠している状態であった。

手術:
診断・治療を目的に、外陰部腫瘤の外科摘出を行った。

会陰切開で腫瘤全体の視野を確保し、腫瘤を摘出。

摘出後の腫瘤は病理学的検査を依頼した。

病理結果:
メラノサイトーマ
表皮直下から真皮から深部にかけてメラニン色素を含有するメラノサイト由来の腫瘍細胞が充実性に増殖している。腫瘍と周囲の境界は明瞭な部分と不明瞭な部分が混在している。悪性黒色腫に頻繁に認められる腫瘍細胞の表皮内増殖性は認められない。腫瘍細胞の核には多少の大小不同はあるが、核小体は小さく異型性は認められない。核分裂像は10視野当たり2~3個程度で、異常分裂像は確認されなかった。脈管浸潤は確認されなかった。

判断:
⇒悪性腫瘍との鑑別は難しいが、病理学的検査の結果から良性の腫瘍と判断した。外陰部の皮膚に発生した腫瘤が膣方向に拡大しているが、切除マージンは良好であるため、再発がないか経過観察とした。

考察:
腫瘍切除後は細菌性膀胱炎の治療も引き続き行ったが、現在は抗菌剤治療終了後も膀胱炎は再発せず経過は順調である。以上の経過から、膣の内腔が腫瘍によって物理的に占拠されていたことが、細菌増殖の温床となり、かつ膀胱炎の再発の原因になっていたと推測した。
実は今回ご紹介した本症例は、当院のアシスタントのライフです。今まで輸血で血液供給するためのドナー犬として、我々と一緒に患者様の治療に携わってきましたが、ドナーとしては引退することになりました。今後は身体の治療を最優先に、スタッフと一緒に頑張っていきたいと思います!

獣医師 吉村

犬の腹腔内出血

2019年04月09日

症例 
シェットランドシープドッグ 避妊メス 13歳

アトピー性皮膚炎が酷く、皮膚症状で通院をしていた子です。

急に食欲がなくなり、立てなくなったと来院されました。
実は、この子は半年前にも同じ症状を起こしています。肝臓にできた癌(肝細胞癌)が腹腔内で破裂し、ショック状態だったのです。この時は肝臓の端から腫瘍ができていたので、比較的容易に手術を終え、その後元気に暮らしていました。しかし手術後、肝臓内での転移が見つかり、今回は転移した腫瘍が再び破裂したものでした。

今回は前回と異なり肝臓の中心部に腫瘍が発生しており、しかも2回目の手術となったために、かなり危険な手術となりました。それでも手術をしなければ、助からない状況であったために、飼い主様は手術を希望されました。

開腹後の肝臓の様子です。

真ん中の黒い部分が出血している肝臓です。
腫瘍の発生部分が肝臓の左側の根本に近く、左側の肝臓をすべて摘出しなければなりませんでした。

摘出した肝臓です。

多くの出血が見込まれたために、術中術後で輸血を200ml以上必要としました。
かなりリスクの高い手術でしたが、手術をしなければ、確実に亡くなっていた症例です。
手術後4か月が経過しましたが、元気に生活しています。

この症例の注目すべき症状は急激な虚脱です。
急に立てなくなるのは、腹腔内の出血か、心臓疾患の可能性が高いです。
いずれも命にかかわる状態なので、すぐに来院してください。

もう一つは輸血の重要性です。今回の手術も輸血なしでは不可能な手術だったと思います。当院にも献血を行える犬はいます。しかし、昨今の診療技術の向上により、手術が可能な症例は増えています。その分、輸血が必要な症例も増えています。当院の犬だけでは血が足りません。また人間のように血液バンクは存在しません(現在の法律では犬の血液バンクは存在できないのです)。献血にご協力いただける子には感謝しきれません。体重20Kg以上の健康で大人しく採血のできる犬を大募集中です。

獣医師 松倉

猫の皮膚腫瘍

2019年04月07日

症例:
猫 メインクーン 11歳 避妊メス

経過:
右後肢の足根部に皮下腫瘤ができたとのことで来院されました。

レントゲン:

 右後肢 側方像


 左後肢 側方像


 後肢 正面像

腫瘤は足根の関節領域の皮膚の下にこぶし大に確認されました。その中心部にはレントゲンで濃い白く写るような不透過性の病変が確認されました。腫瘤は直径8cmと大きく膨らんでいましたが、骨組織への浸潤は認められませんでした。

経過:
痛みもなく歩行にも異常はありませんでしたが、数か月の間に急速に増大していたため、外科切除による治療を提案させていただきました。

手術:
全身麻酔下にて腫瘤の全摘出を実施しました。



                     
腫瘤がとても大きかったため一緒に切除する皮膚も広範囲になりましたが、筋肉も神経も損傷することなく無事に摘出できました。

摘出腫瘤 8cm×4cm×3.5cm

摘出腫瘤断面像:中心部に骨様の非常に硬い領域がありました(レントゲンで認めた不透過性の部分)。メスの刃でも切ることができないくらい硬い病変でした。

病理診断:
摘出腫瘤は外部の検査センターに診断を依頼しました。
結果は、仮骨性軟骨脂肪(Ossifying chondrolipoma)という病理診断でした。これは皮下脂肪組織の中に骨軟骨組織が存在するタイプの良性腫瘍です。このように脂肪組織の中に骨形成を伴っている病態は、動物では非常にまれなケースなのだそうです。腫瘤は手術ですべて切除できているので、今後は抗がん剤などの治療は行わず、再発がないか経過観察することになりました。

このケースのように、良性の腫瘤であっても大きくなりすぎたり、あるいは痛みを伴ったりする場合は将来的なリスクを考えて外科的な切除が治療に必要です。腫瘍の発生部位によっては、大きくなりすぎると手術で摘出できなくなったりしてしいますので、ペットの体にしこりをみつけたら早めに受診するようにしてください。

獣医師 吉村