被嚢性腹膜硬化症
今回の症例報告では、動物病院では通常よく行われている避妊手術において、
膜様構造物により卵巣摘出が困難だった症例をご紹介します。
症例
MIX犬(チワワ×Mダックス) メス 2023.3生まれ
既往歴は特になく、一般状態は良好のため
生後7ヶ月で避妊手術(卵巣摘出)を試みました。
避妊手術は一般的に実施されている手術であり、
子宮を牽引し卵巣にアプローチして、卵巣を摘出します。
今回の症例では、開腹後、通常通り子宮を牽引しようとしましたが、
腹腔内に癒着がみられ、腹腔内の臓器が膜様構造物で包まれている様な状態で、
子宮の牽引が困難でした。
そのため一旦閉腹し、CT検査を実施しました。
CT検査では左右とも卵巣の存在を確認でき、腹腔内も画像上異常は認められませんでした。
<CT画像>
1ヶ月後、再度避妊手術を実施し、
今回は通常の避妊手術よりも大きく開腹し、腹腔内の状態をより把握しやすい状況下で行いました。
初回同様、腹壁と消化管および消化管同士が透明な膜様構造物で癒着しており、
子宮全体も膜の下に存在していました。
そのため、膜を切開して剥離しながら子宮を露出し、子宮を牽引して卵巣にアプローチして無事摘出できました。
今回の症例は、犬では非常に珍しいですが、被嚢性腹膜硬化症と思われます。
この病気は腹膜が腸などの腹腔内臓器を包んで癒着してしまい、腸の動きが悪くなったり、腸閉塞を起こす場合もあります。
原因として、異物の摂取、細菌性腹膜炎、感染症、肝細胞癌などの報告がありますが、
今回の様に偶発的に発見されることがほとんどの様です。
獣医師 川口