犬の皮膚リンパ腫|横浜市磯子区の動物病院「洋光台ペットクリニック」

症例紹介

犬の皮膚リンパ腫

【症例】 マルチーズ 15歳 避妊雌

【主訴】

一か月前から背中および右前肢にあったにきび大のもりあがりが、大きくなりじゅくついてきた、との主訴で来院されました。

【経過】

背中および右前肢手根部に腫瘤を認め、両病変部をこすり取り顕微鏡で観察したところ、球菌および炎症細胞である好中球やマクロファージが観察されました。当初炎症を抑える処置として、抗菌薬による反応を見ていましたが、初めの稟告から10日後には、背中の腫瘤が2.2cmに増大していることを確認しました。

そのため再度両病変部の検査として、FNBによる観察を行ったところ、悪性腫瘍の所見である、大小不同、辺縁不整、同一細胞の増殖が観察されました。

上記結果より、背中および右前肢腫瘤の手術による切除、および腫瘍細胞の転移の可能性を考え、CT撮影による全身の検査を行いました。

病理組織検査の結果、切除した背部および右前肢手根部の腫瘤は、上皮向性皮膚リンパ腫であることが分かりました。

 

【リンパ腫】

リンパ腫とは、リンパ系の細胞が骨髄以外の臓器で異常増殖を起こす病気です。あらゆる臓器に腫瘤を形成するものから、腫瘤の形成が明らかでないものまでさまざまな病変を示します。白血病という病名を耳にすることがあると思いますが、リンパ球の異常増殖が骨髄で起こったものがこれに該当し、リンパ腫とは発生場所が異なります。リンパ腫は犬に発生する悪性腫瘍の中でも7~24%を占める腫瘍で、低悪性度から高悪性度、腫瘍細胞の種類、発生場所、転移の有無などによって病気の進行や予後は様々です。

 

本症例は皮膚に発生したもので、犬のリンパ腫全体の5%程度ともいわれる、比較的稀な症例です。本症例のように腫瘤を形成するものから、紅斑、びらん、潰瘍、鱗屑(皮膚が細かく剥がれ落ちたもの)、痂皮、全身に多発するものまで、外見は多様です。また、掻痒を伴う症例もしばしばみられます。

一般的に、短期間で皮膚病変に変化がみられるものは何らかの腫瘍の可能性を疑い、FNB(fine needle biopsy:針生検)による細胞診と、確定診断および精査の目的で病変部切除および病理検査を行います。

 

本症例の「上皮向性」というのは、上皮内(表皮、毛包、汗腺)にのみ腫瘍細胞の浸潤が認められるものですが、進行とともに深い層へと浸潤します。本症例では、真皮~皮下組織に至る浸潤を認めましたが、切除腫瘤の病理組織学検査結果より、そのすべての切除が確認されました。

 

【治療】

本症例は術後、ロムスチンという抗がん剤の3週間ごとの投薬をご提案、実施しました。

しかしその間にも左後肢に8mm大の痂皮を確認し、鏡検によりリンパ球の浸潤を確認したため新たなリンパ腫であることが分かりました。現在サイズの拡大がみられるため、抗がん剤の多剤併用も視野に治療を進めています。

 

本症例は、いち早く腫瘤を発見、経過観察を行った結果、急激な腫瘤の増大を認めたため、検査、診断にたどり着きました。

最近気付いた小さなにきびやかさぶたが時間をおかずにどんどん大きくなる、昔からあり変化は分からないが不安、など、気になる際はどうぞお気軽にご相談ください。

 

獣医師 酒井

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