犬の精巣腫瘍
【症例】
スキッパーキ 11歳 未去勢雄
【主訴】
精巣の腫大、全身の皮膚の脱毛
【検査】
両側の精巣が鼠蹊部において陰睾の状態であり、特に左精巣が7cm大に腫大していました。
また、頸部から背部、大腿部を中心とする左右対称性の脱毛が認められ、乳房の腫脹等の雌性化の兆候も確認されました。
血液検査では著変はありませんでした。
下写真は初診時の被毛の様子です。
【手術】
麻酔下でCT検査及び両側精巣の摘出手術を実施しました。
【CT検査結果】
前立腺の腫大(3.1cm×3.1cm)
骨盤腔内のリンパ節の腫大なし
【病理検査結果】
左側精巣:セルトリ細胞腫
右側精巣:精上皮腫(セミノーマ)
犬の精巣腫瘍は精上皮腫、セルトリ細胞腫、間細胞腫(ライディッヒ細胞腫)の3種類の腫瘍が最も多く、同じ頻度で発生するとされています。
精巣腫瘍は一般に良性ですが、精上皮腫及びセルトリ細胞腫は今回の症例のような停留精巣で好発し、一部は骨盤腔内のリンパ節や肝臓、肺などに転移する場合があります。
生殖器の腫瘍であることから、ホルモンバランスの不均衡が発生しうります。
特にセルトリ細胞腫は女性ホルモンの一種であるエストロジェンの過剰産生を伴うことから乳房の腫脹等の雌性化の他、左右対称性脱毛、腫瘍化していない側の精巣の萎縮、更には骨髄抑制を引き起こす場合があります。
本症例では、手術時のCT検査ではリンパ節含め明らかな転移所見は認められませんでした。
一方、病理検査では左側精巣においてリンパ管内に腫瘍細胞が稀に確認されました。腫瘍の分類的には悪性の可能性は低いですが、今後リンパ節の状態の経過観察は必要となります。
今回は骨髄抑制の症状は認められませんでしたが、手術が遅れた場合にはさらに症状が重篤になっていた可能性もあります。
【術後経過】
術後の経過は良好です。
4ヶ月後の来院時には被毛もかなり生え揃い、スキッパーキらしいボリュームのある見た目になりました。
犬の精巣腫瘍は以前の症例報告にある前立腺腫大と同様に男性ホルモンの影響をうける疾患です。
特に本症例のように精巣が本来の陰嚢の位置に降りず腹腔内や鼠蹊部に残留する停留精巣は精巣の腫瘍化のリスクが正常犬と比較して13倍程高いと言われています。
犬の去勢手術にはどの年代での実施であってもメリットデメリットはあります。
ですが、本症例のような停留精巣では中齢以降に腫瘍化するリスクも高く、重篤な病状となる場合もあることから早めの去勢手術が推奨されます。
若齢期以外でも、中齢期以降でタイミングがなく去勢手術に踏み切れずに迷われている方も多いかと思います。
今現在の体の状態を検査で把握しつつ、その子が去勢手術を実施するメリットとデメリットを一緒に考えていきますので、お気軽にご相談ください。
獣医師 亀山