犬の緑内障|横浜市磯子区の動物病院「洋光台ペットクリニック」

症例紹介

犬の緑内障

犬の緑内障

 

【はじめに】

緑内障は眼圧が上昇することで、目と脳を繋ぐ視神経が障害されることで、視野が狭くなったり、失明に至ってしまう眼疾患です。ヒトでは視力を脅かす疾患として知られていますが、イヌやネコにも同様に緑内障を発症することがあります。緑内障発症の要因の一つとして、目の中の水が目の外へ出ていく出口の部分(隅角)が詰まってしまうことによって、眼圧が上昇してしまいます。ヒトでは隅角が開いている状態で眼圧が上昇する、開放隅角緑内障が多いですが、犬では隅角が狭くなったり閉じてしまう閉塞隅角緑内障の方が多くみられます。開放隅角緑内障は眼圧上昇が軽度であることが多く、時間をかけて視野欠損が進行していくのに対し、イヌの閉塞隅角緑内障は急激に眼圧が上昇し、数日で失明に至ることが少なく無い疾患です。そのため、数日前から目がおかしいと思い、病院に行った時には、既に不可逆的な視覚喪失に至っていることも少なくありません。

今回は早期に緑内障発症を診断し、治療が奏効したイヌの原発閉塞隅角緑内障の1例をご紹介します。

 

【症例】

柴犬、6歳、避妊雌。2日前から元気がなく、今日の朝から左目が空いていないとの連絡があった。以前から通院していた眼科病院に来院したところ、左眼の眼圧上昇が認められました。進行した白内障や水晶体脱臼、眼内腫瘍などの眼圧上昇を引き起こす他の眼疾患がみられないことから、左眼の原発閉塞隅角緑内障と診断されました。入院での点眼治療を行ったところ、眼圧は正常範囲内にコントロールすることができました。今後の治療方針として、点眼での治療を継続するか、眼圧をコントロールする手術を行う治療をするかを提示されたところ、ご家族は手術の実施を希望されました。そのため5日後に手術を予定とし、それまでの間は当院で眼圧をモニターしながら、手術までの間に眼圧の再上昇が生じるようであれば、当日の緊急手術を依頼する方針といたしました。手術までの間の眼圧は安定していたため、予定日に左眼のアーメド緑内障バルブインプラント挿入術が実施されました(図1)。術翌日退院となり、眼科病院と連携しながら眼圧のモニタリングと眼内炎症のコントロールを継続しました。現在術後3ヶ月経過していますが、眼圧の再上昇はみられず、良好な視覚を維持しています。

 

図1:アーメド緑内障バルブインプラントを前房内に挿入した右眼。

 

 

【コメント】

犬の原発閉塞隅角緑内障は急激な眼圧上昇により、目が見えない、目が開かない(眼瞼痙攣)、充血、目脂、黒目が白い(角膜浮腫)、目が大きくなっている(眼球拡張)などの症状がみられます。眼圧上昇の程度にもよりますが、重度の眼圧上昇では、数日で視神経が障害され、不可逆的な視覚喪失に至ってしまうことも少なくありません。そのため早期に診断し治療をすぐに始めることが、犬の原発閉塞隅角緑内障においてはとても大事になってきます。犬の原発閉塞隅角緑内障の原因は解明されていませんが、遺伝的な要因も関係していると考えられており、日本では柴犬やシーズーなどが発症リスクの高い犬種であるとされています1。治療については、視覚があるもしくは視覚が回復する見込みがある場合と、視覚喪失に至ってしまった場合で治療方針が異なります。本項では前者における治療についてご説明します。

緑内障の治療は眼圧を下げることが主な治療になりますが、点眼治療と手術が選択肢として挙げられます。点眼治療は、ヒトと同様、隅角から前房水の排出を促進する作用と、前房水の産生を抑制する作用によって眼圧をコントロールをしていきます。しかし、点眼薬の効きが悪くなってしまい、長期の眼圧コントロールが困難になることが少なくありません。一方、ヒトの緑内障の手術では、線維柱帯切除術や流出路再建術など、前房水の排出を物理的に補助する手術がよく行われています。獣医療では前房内にチューブをいれて目の外に直接眼房水を排出させる手術がよく行われます。点眼治療では目薬が効かなくなると種類を変えたり、点眼の本数が増えてしまい治療が大変になることがあります。しかし、この緑内障手術では、チューブが詰まらない限り安定した眼圧を維持できるため、点眼治療と比較して長期の視覚維持がしやすいとされています。

近年、本邦からアーメド緑内障バルブ(AGV)を使用した犬の緑内障の視覚予後についての報告がされています。その報告ではAGVを用いた手術後の視覚維持期間は、平均57ヶ月(4年9ヶ月)であったと報告されています2。そのため、手術を行うことで、比較的長期間での視覚維持ができる可能性が示唆されています。しかし、緑内障の診断が遅れてしまい、既に視覚を喪失してしまった場合には、視覚を回復させることは困難になってしまいます。そのため、犬の緑内障では目のしょぼつきや充血・目脂などの症状が見られた場合はすぐに病院を受診して、緑内障のチェックをされることをお薦めします。

当院では眼圧測定を含めた緑内障のチェックも行っていますので、ご心配な点がある場合はお気軽にご相談ください

 

獣医師 小松紘之

 

 

  1. Kato K, Sasaki N, Matsunaga S, Nishimura R, Ogawa H. Incidence of canine glaucoma with goniodysplasia in Japan : a retrospective study. J Vet Med Sci. Aug 2006;68(8):853-8. doi:10.1292/jvms.68.853
  2. Saito A, Iwashita H, Kazama Y, Wakaiki S. Long-term vision outcomes and breed differences of Ahmed Glaucoma Valve implantation in 132 eyes of 122 dogs. Vet Ophthalmol. Sep 28 2021;doi:10.1111/vop.12941

 

 

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