犬の炎症性直腸ポリープ|横浜市磯子区の動物病院「洋光台ペットクリニック」

症例紹介

犬の炎症性直腸ポリープ

【症例】

ミニチュア・ダックスフント 14歳齢 未去勢雄

 

【主訴】

2週間前から有形軟便に鮮血が付着する。

便の最後が粘液状である。

 

【検査】

食欲は問題なく、嘔吐等の他の消化器症状はなかったものの初診時体重が2ヶ月前の診察時と比べて400g低下していた。

触診上で腹部に腫瘤を触知し、エコー検査にて直径6cmの脾臓の腫瘤を確認。

また、直検にて肛門から6cm程の部分にポリープを触知。

血液検査では軽度の貧血の他、CRP(炎症マーカー)が14と上昇している他は著変は認められず。

翌日に麻酔下にてCT検査、脾臓の摘出、去勢、直腸ポリープの生検を実施。

脾臓腫瘤と直腸ポリープを病理検査に提出した。

 

CT検査画像]腹腔内を占拠する脾臓腫瘤(赤矢印)

 

[直腸ポリープ]肛門から10cm程の部位にポリープが確認できる(青矢印)

 

【病理検査結果】

⚫︎脾臓:高度の鬱血と血腫。腫瘍性病変は認められず。

⚫︎直腸:炎症性直腸ポリープ。

 

【診断】

炎症性直腸ポリープは中高齢のミニチュア・ダックスフントに好発する消化器疾患です。

一般的には鮮血や粘液の付着した便が排出されたり、しぶりや便が細くなる等の症状が認められます。

免疫介在性の疾患であると考えられており、特定の犬種に好発することから遺伝的な背景が疑われていますが、明らかな原因遺伝子の特定はされていません。

また、高齢の症例ではポリープが腫瘍化する場合もあります。

脾臓は前回の症例報告と同様に「血腫」との診断が出ました。

腫瘍ではなかったものの、いわゆる血豆のような状態であり、今回の症例も腹部の大部分を占める様な巨大なものだった為、体重減少や貧血等の全身状態の悪化に繋がっていたと予測できます。

今回は摘出できましたが、発見が遅れた場合には血腫が破裂し、腹腔内への大量出血が起こり命に関わる状態になる可能性がありました。

 

【治療】

術後3日目から食欲が完全に回復し、4日目に退院となりました。

その後全身状態の回復を待ってから炎症性直腸ポリープの治療を開始し、この時点で貧血およびCRPの改善が認められました。

炎症性直腸ポリープは前述の通り免疫介在性であると考えられている為、治療では免疫抑制剤の使用が適応となります。

この症例でも直腸のポリープの状態を経過観察しつつ免疫抑制療法を実施し、改善がみられています。

現在治療開始から4ヶ月が経過し、薬の量を漸減しつつ体調良く過ごしています。

また、炎症性直腸ポリープは今回のような内科的治療の他に、ポリープが大型であった場合や腫瘍化している場合には外科手術も適応になります。

 

【まとめ】

今回の症例は、消化器症状を主訴とする来院で偶発的に脾臓腫瘤を発見し、直腸ポリープの生検及び脾臓摘出手術を同時に行えました。

結果として炎症性直腸ポリープの診断から治療開始の流れを迅速に行えたと共に、将来的な脾臓腫瘤の破裂によるリスクを回避することが出来ました。

 

犬猫の消化器症状は動物達との暮らしの中でも頻繁に遭遇する体調不良ですが、時には今回のような動物種に特有の病気が存在している場合もあります。

何か気になる症状がある場合にはお早めの来院をお願いします。

 

獣医師 亀山

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