犬の非定型副腎皮質機能低下症(アジソン病)
・症例
柴犬 避妊雌 9歳
・主訴
元気食欲低下、嘔吐、後肢震え、尾を下げて歩く、抱っこするとキャンと鳴く、飲水量増加、毛が異常に抜ける
・検査
触診:問題なし
血液検査:異常値はクレアチニン2.1mg/dL、CRP(炎症を表すマーカー)軽度上昇
それ以外、電解質や尿素窒素、肝臓、血糖値など異常なし
尿検査:尿比重1.012と低値以外は問題なし
超音波検査:異常所見なし
症状や検査結果から当初は胃腸炎、もしくは腎臓病や甲状腺機能低下症など複数の疾患を疑って検査や治療を行いましたが、数日経過しても良化なく、食欲廃絶と立てないほどの虚脱を呈したためコルチゾール(ホルモン濃度)の検査を実施
・診断
非定型副腎皮質機能低下症(アジソン病)
犬のアジソン病は副腎のホルモンの分泌が不足する病気です。
副腎とは腎臓の近くにある臓器で、様々なホルモンを分泌しています。
主に胃粘膜の保護や血圧の維持に重要なグルココルチコイドと、電解質や血圧の維持に重要なミネラルコルチコイドの2つを分泌しています。
典型的なアジソン病では、グルココルチコイドとミネラルコルチコイドの両方が不足します。
非定型アジソン病では、グルココルチコイドのみ不足してしまいます。
本症例は後者の非定型アジソンに該当し、ホルモン剤の投薬により状態は日毎に良くなり、暫く寝たきりだったのが、立って歩くことも可能になりました。
アジソン病の原因は①原発性(副腎の異常)
②二次性(他の器官の異常に続いて起こる)
に分けられます。
- は副腎の破壊による疾患で、その原因として、自己免疫疾患や感染症、出血、悪性腫瘍などがあります。また、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の治療薬によって招くこともあります。
- は脳下垂体や視床下部が腫瘍や炎症などにより破壊され、副腎を刺激するホルモンの分泌が低下して副腎が刺激されないことにより萎縮してしまいます。
アジソン病は完治しない病気ですが、きちんとお薬を飲むことで安定した生活を維持して過ごすことができます。
しかし、状態が安定していても、過度にストレスがかかる状況(ペットホテル・トリミング・長距離移動など)では、状態が悪化する可能性もあるので、日常生活では出来るだけストレスを避けた生活を送ることが望ましいです。
ストレスがかかるような状況がある場合は、前もって獣医師と相談して、その前後は薬の量を調節することもアジソン病と上手に付き合っていくうえで重要です。
獣医師 田邊