猫のヘルペスウイルス関連性眼疾患|横浜市磯子区の動物病院「洋光台ペットクリニック」

症例紹介

猫のヘルペスウイルス関連性眼疾患

【緒言】

ヘルペスウイルスは2本鎖DNAウイルスであり、人を含む幅広い動物種において感染性疾患を引き起こすウイルスである。猫においては、猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)は90-97%の猫がウイルスを保有していると報告されており、呼吸器疾患や皮膚疾患、眼疾患を生じるため問題となっている1。特に眼科領域では、角膜潰瘍や角膜実質炎、眼瞼炎を生じ、視覚喪失に至ることも少なくないため、臨床的に注意が必要である。近年、FHV-1に対する治療薬として、イドクスウリジン点眼(IDU「センジュ®」)やシドフォビルなど様々な薬剤が獣医領域で使用可能である2。特にファムシクロビルはFHV-1のDNA合成を阻害するプロドラッグであるが、猫のヘルペスウイルス関連疾患に対し、症状を軽減させる作用があることが報告されている3。今回、保護猫で多いヘルペスウイルス疾患に対して、ファムシクロビルの使用によって症状が改善した症例を報告する。

 

【症例】

1-2ヶ月齢の猫が保護され来院。来院時は虚脱していたが、点滴や保温などの治療によって症状は改善した。眼所見として、両眼の眼瞼発赤、角膜中央部の浮腫、角膜潰瘍が認められた(図1)。またくしゃみや鼻汁も認められた。これらの症状から、ヘルペスウイルスによる猫伝染性鼻気管炎と仮診断を行った。治療として、ヒアルロン酸点眼および抗生剤の点眼を開始。治療開始後、角膜潰瘍や角膜浮腫は改善傾向であったが、呼吸器症状や眼瞼炎は残存していた。そのため、ファムシクロビルを40mg/kg/BIDで開始。開始後一週間で眼瞼炎や呼吸器症状の改善がみられたことから、眼症状および呼吸器症状の主要因としてFHV-1が関連していると診断した。その後、眼症状は改善し、角膜混濁は初診時と比べ著明に減少しており、視覚も維持されている(図2)。

 

【考察】

猫伝染性鼻気管炎はFHV-1を起因として発症する、呼吸器症状や眼症状を呈する疾患である。診断として、臨床所見やPCR法によるウイルスDNAの検出があるが、上述のように多くの猫でウイルスを保有しているため、PCR陽性であったとしても、症状と関連していない場合もあるため、診断には注意が必要である。本症例ではファムシクロビルの内服が著効したが、内服が困難な症例に対してはイドクスウリジン点眼の使用も考慮される。オーナーへのインフォームドとして、猫伝染性鼻気管炎の治療については、FHV-1を根絶する治療ではないことを伝える必要がある。FHV-1は三叉神経線維に潜伏感染し、宿主の免疫力が低下した際に症状が再燃する可能性がある。FHV-1が活性する要因の一つとして、猫自身のストレスが免疫力を低下させ、発症に繋がると言われている。そのため、オーナーには環境的なストレス因子(同居猫との関係、人の出入り、引っ越しなど)がないかを検討してもらい、極力軽減してもらうよう伝える必要がある。

最後に、本症例は里親に引き取られ大きな問題もなく幸せに暮らしている。幼齢時の猫伝染性鼻気管炎は初期治療が遅れると、鼻腔狭窄や瞼球癒着などの症状が残存し、生涯のQOLを著しく低下させる可能性がある。そのため早期の診断および治療介入が必要と考えられる。図1

図2

参考文献

  1. Gould D. Feline herpesvirus-1: ocular manifestations, diagnosis and treatment options. J Feline Med Surg 2011;13:333-346.
  2. Thomasy SM, Maggs DJ. A review of antiviral drugs and other compounds with activity against feline herpesvirus type 1. Vet Ophthalmol 2016;19 Suppl 1:119-130.
  3. Cooper AE, Thomasy SM, Drazenovich TL, et al. Prophylactic and therapeutic effects of twice-daily famciclovir administration on infectious upper respiratory disease in shelter-housed cats. J Feline Med Surg 2019;21:544-552.

 

 

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